アウトリーチの定義
病院での診察や相談室でのカウンセリングでは、利用する人がその施設を訪れ、医師やカウンセラーはそれを待っているという形が一般的です。
それに対してアウトリーチは、必要としている支援を受けられていない人に対して、専門家の方からの訪問支援などを通じて、包括的な地域支援を行うという形態を取ります。
寝たきり状態などで病院や相談機関を訪れたくても外出できない人に対して専門家がその人の自宅に出向いたり、災害などにより孤立している住民や地域に対して他の地域から人員やサービス、情報を提供したりすることがアウトリーチに該当します。
何らかの専門的援助が必要と考えられるものの、当事者自身が支援の必要性を感じていないということもあります。
その人が相談に訪れるのを待つだけでは状況がいつまでも改善しないと考えられる場合は、支援者から積極的に働きかけて事態が深刻化する前に問題に取り組むことが重要になります。
例えば、ひきこもり状態の人は、実際には自身の現状に問題意識を持ち、何とかしたいと思っている人も多いものです。
しかし、外出することや助けを求めることが元来苦手な場合も多く、誰にも相談できないでいるうちに、ひきこもりが長引きがちです。
そうした場合、支援者の方からその人のもとを訪れることが、その先の支援につながるきっかけとなることがあります。
ただし、普段生活している場所に見知らぬ人が訪れるというのは、少し荒療治的な側面もあります。
ひきこもりの本人やその家族にしてみれば、ひきこもり状態を責められるのではないか、説教されるのではないかと緊張やプレッシャーを感じることも多いでしょう。
そのため、本人や家族が訪問に応じて会ってくれたとしたら、そのこと自体を労うといった配慮が求められます。
また、アウトリーチは、高齢者福祉においても有益なアプローチ法となります。
受けられる公的サービスについて、高齢者本人やその家族の理解が不十分であったり、援助を受けることや他者と交流すること自体に本人が拒否的であったりする場合もあります。
そうした際はアウトリーチを通じて関係作りをすることで、潜在的ニーズの掘り起こし、情報やサービスの提供の入り口を作れる可能性があります。
近年、社会的孤立状態にある高齢者数は増加しています。
特に認知症の疑いのある高齢者は、自らの心身の状態を的確に判断しづらく、困り事があっても助けを求めることをせず、最悪の場合は孤立死に至る場合もあります。
孤立状態にある、またはなりそうな世帯があれば、アウトリーチにより積極的な関係作りを行い、いざというときに対象者が相談しやすい状況を作っておくことが重要です。
アウトリーチの関連キーワード
- 訪問支援
- 社会的孤立
- アサーティブ・コミュニティ・トリートメント(包括的地域生活支援)
- 災害派遣精神医療チーム(DPAT)
- サイコロジカル・ファーストエイド(心理的応急処置)
アウトリーチの補足ポイント
アウトリーチを支援活動の中心として地域の生活支援を行うケアマネジメントモデルに、アサーティブ・コミュニティ・トリートメント(包括的地域生活支援)があります。
これは、重症の精神疾患を持つ人を対象にして、保健・医療・福祉領域にわたって多職種による包括的ケアを提供する援助方法です。
利用者の強みを生かし、病状が重い人でも地域社会の中で自分らしく生活できることを支援目標とします。
また、災害時に被災都道府県の要請に基づいて、災害派遣精神医療チーム(DPAT)を派遣することもアウトリーチの1つです。
災害発生時は、強いストレスから情緒不安定や不眠などが被災者に生じることがあり、精神的なケアも当然重要です。
しかし、カウンセリングでじっくりと悩みを相談するゆとりは災害直後にはありません。
災害発生から4週間ほどの時期は、食料、水、情報などの提供や、サイコロジカル・ファーストエイド(心理的応急処置)が優先されます。
心理的応急処置では、安全確認をして、基本的ニーズがある人を確認する「見る」、支援が必要と思われる人々に寄り添い、必要なものや気がかりなことをたずねる「聞く」、そして基本的ニーズを満たすためのサービスが受けられるようにしたり、情報を提供したりする「つなぐ」の3つが基本となります。
アウトリーチによる支援は、積極的にサービスを届けられるというメリットがあります。
しかし、客観的に見てサービスが必要だと思われる人自身が、サービスの提供を強く願っているとは限りません。
心の底では助けがほしいと思っていても、期待が裏切られたら怖い、迷惑をかけるのは申し訳ないといった思いから、援助を拒否する人もいます。
対象者のさまざまな心情も汲み取り、その人たちの生活や心の中に無遠慮に踏み込むことがないように慎重に関わっていくことが重要です。